大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)94号 判決

(争いのない事実)

一 特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願意匠と引用意匠とが意匠としての特徴を著しく異にするにかかわらず、両者の差異は軽微な差異にすぎないとの誤つた認定をした結果、両意匠は類似するとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、理由がないものというべきである。

1 成立に争いのない甲第二号証(昭和五一年九月二日付意匠登録願書及び図面)、第三号証(雑誌「栄養と料理」昭和五〇年一〇月号第一四〇頁)によれば、引用意匠が本願意匠の意匠登録出願前の昭和五〇年一〇月三日特許庁資料館受入(この点は、原告の明らかに争わないところである。)の雑誌「栄養と料理」昭和五〇年一〇月号第一四〇頁上段に所載された別紙二の図面の黒枠内に示すとおりの意匠であること、本願意匠に係る物品は、縦長半截状に形成したウインナー・ソーセージに他のものを接着して丸棒状とし、その周面にパン粉をまぶして形成したウインナーの改造フライ用ウインナーであるのに対し、引用意匠に係る物品は、ウインナー・ソーセージの周面に片栗粉をまぶして油で揚げた物であつて、共にウインナー・ソーセージに一定の加工を施して、その周面に衣を付けた揚げ物料理として食する物であり、同種の物品と認められ、かつ、両意匠は、全体の構成態様が本体を両端が球面状となるよう形成した丸棒状のもので、その周面に衣を付けたものである点で一致しており、本願意匠は、本体の内部構造につき、縦長半截状に形成したウインナー・ソーセージに他のものを接着して形成しているのに対し、引用意匠は、そうした内部構造になつていない点、本願意匠はパン粉をまぶした、油で揚げる前の保存状態を表しているもの(フライ用)であるのに対して、引用意匠は、ウインナー・ソーセージに片栗粉をまぶして油で揚げた後の状態のもの(唐揚げ品)で、そのまま食卓に出して食べられる状態を表している点及び衣の表面の態様について、本願意匠は、パン粉をまぶしたものであつて、やや角張つた細かい凹凸が形成されているのに対し、引用意匠は、片栗粉をまぶしたものであつて、丸みがかつた細かい平坦な凹凸が形成されている点が相違していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2 そこで、以上の両意匠における差異点について考察するに、本体の内部構造の差異は、右内部構造が意匠にかかる物品の性質上外観から視認しにくい部分であつて、看者の注意をひく部分とはなり得ないことから、意匠上は軽微な差異と認められるものであり、また、油で揚げる前の状態のものであるか、揚げた後の状態のものであるかという差異については、本願意匠に係る物品は、使用の状態においても変形するものではなく、保存中又は揚げた後の状態であつても意匠の形態自体に変わりはないものと認められるから、揚げる前と後で意匠として差異があるものということはできない。更に、衣の表面の態様の差異は、パン粉と片栗粉という衣の素材の形状に起因して生ずる差異であると解されるところ、パン粉や片栗粉をまぶした衣の表面の態様自体は、本願意匠の意匠登録出願前からありふれた周知の態様であつて、両意匠において看者の格別の注意を引く特徴的な部分とはいえず、したがつて、本願意匠の「やや角張つた細かい凹凸が形成されている」という衣の状態と引用意匠の「丸みがかつた細かい平坦な凹凸が形成されている」という衣の状態の差異は、両意匠の類否を左右するほどの顕著な差異とはいい難い。そうであるとすれば、前認定のとおり、本願意匠と引用意匠とは意匠に係る物品を同じくし、全体の構成態様において、共に本体を丸棒状とし、その両端を球面状となるよう形成し、その周面に衣を付けたものである点で一致しているのであるから、本願意匠と引用意匠とを全体的観察により対比すれば、両意匠は類似するものと解するのが相当である。

原告は、本願意匠は、パン粉をまぶした、油で揚げる前の保存状態を現しているものであるのに対して、引用意匠は、片栗粉をまぶして油で揚げた後の状態のもの(唐揚げ品)であり、パン粉はザラザラポチポチ粒子状のものであるのに対し、片栗粉は、白粉、化粧品の様に微粉末のものであつて、同じように油で揚げて食するものとしても、視覚を通じて受ける印象は明らかに違い、一瞥して区別できる全く別のものであつて、両意匠を混同するおそれはない旨また、パン粉をまぶした食品は、最近になつて賑々しくなつたものであることや揚げ物における衣については、今日でも研究されているのが現実であること(甲第四号証参照)、ウインナー・ソーセージ類は、羊の腸に肉詰めした加工品で、原形のまま食することを目的としているため、パン粉をまぶしてフライ食品として加工し、流通させることは作業工程からして困難であつて、それがため商品化することができなかつたし、現在でもほとんど商品化されていない分野のものなのであること等からして、本願意匠と引用意匠との衣の差異をもつて、「揚げ物における衣につき、普遍化していたとおりのパン粉をまぶした揚げ物に変更したことによつて生じた軽微な差異にすぎない」旨の本件審決の認定判断は誤りである旨主張するが、前段主張の点については、前認定説示のとおり、本願意匠は、使用状態においても変形するものではなく、保存中又は揚げた後の状態においても意匠の形態自体に変わりはないものと認められるので、揚げる前か後かということに意匠としての差異があるとは認められず、かつ、パン粉をまぶしたフライと片栗粉をまぶした唐揚げの衣の形状の差異の点については、比較対照すべきものは、本願意匠の全体と引用意匠の全体であつて、素材の違いではなく、素材の違いが衣の形状の差異をもたらすとしても、その差異は意匠全体の中で評価されるべきで、その違いが直ちに意匠の差異をもたらすものと解することはできず、これを本件についてみても、素材の違いによる衣の状態の差異が両意匠の類否を左右するほどの顕著な差異と認められないことは、前説示のとおりであるから、原告の右前段の主張は採用できず、また、後段主張の点については、本願意匠は、ウインナー、ソーセージをフライ食品として製品化した点に創作性があり、この点を大きく評価すべきである旨の主張のようであるが、従来パン粉をまぶしたフライ食品として商品化することができなかつたウインナー・ソーセージをフライ食品として商品化したという創作性の点は、発明又は考案として評価されることはあり得ても、物品の形状、模様等に関する意匠の対象とはなり得ないから、この点の原告の主張は、失当といわざるを得ない。

してみれば、本願意匠は、引用意匠とその基本的な構成態様(本体を両端が球面状となるよう形成した丸棒状のもので、その周面に衣を付けた点)を共通にし、前記相違点は、両意匠の類否を左右するほどのものとはいえないから、両意匠は、これを全体としてみるときは、共通した印象を与えるものであつて、類似するものというべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。

〔編註その一〕 本件における特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

原告は、昭和五一年九月二日、意匠に係る物品を「ウインナーの改造フライ用ウインナー」とする別紙一記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五一年意匠登録願第三四七五五号)をしたところ、昭和五四年三月一〇日拒絶査定を受けたので、昭和五四年五月二二日、これを不服として審判の請求(昭和五四年審判第五六一七号事件)をしたが、昭和六〇年四月二六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年六月六日原告に送達された。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙一

<省略>

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